今日は一年でもっとも寒さが厳しいとされる“大寒”。
冷峰学園へと続く通学路にも、鋭く冷たい風が吹き抜けていた。
この寒さを凌ぐために、周りが暖かそうな防寒着を身に纏っている中で、
藤原小百合は制服の上から白いコートを羽織っていたが、マフラーも巻かずに歩いているせいで、顔も耳も真っ赤になっていた。
「うう……さすがに今日は寒いなあ……」
白い息を吐きながら手を擦り合わせて歩くその姿を、通学路の先で見つけたのは藤堂護だった。
制服の上にはシックなダークブラウンのコートに上質そうな黒いマフラー。
どのような格好でもどこか絵になる彼は、朝日を背に静かに佇んでいた。
「おやおや、この寒さでマフラーなしとは、随分と無防備な格好だね、藤原さん?」
「あっ、藤堂くんおはよ〜。急いでて忘れちゃった」
はにかむように笑う藤原の頬は、寒さのせいだけではない赤みに染まっている。
そんな彼女を見て、藤堂はため息まじりに微笑んだ。
「まったく……風邪を引かれてはボクの心が寒くなってしまうよ。キミがこのまま体調を崩すのは本意じゃないな」
そう言うと、藤堂はためらいもなく、自分のマフラーを外した。
さらりと舞うように、その黒のマフラーは彼女の首元へと巻かれる。
「ちょ、ちょっと藤堂くん!?それじゃ藤堂くんが──」
「フッ、ボクのことは気にしなくていいさ。キミの頬が冷え切っている方が、よほど問題だ」
その目はまっすぐに藤原を見ていて、からかうようでいて真剣だった。
「……あったかい……」
マフラーの端を握りしめ、彼女はそっと呟く。
そのマフラーは、上質な糸で織られているのが肌に触れてわかるほど心地よく、冷えた彼女の首元を温めた。
マフラー越しに彼の体温と移り香を感じ、頬をほんのり朱に染める。
「当たり前だよ。このマフラーはボクのためにオーダーメイドされたものだからね。キミにだけ、特別に貸してあげるよ」
「ふふっ、どうもありがとう」
藤原のうれしそうなその反応に、藤堂は満足げに微笑んだ。
「そのマフラー、キミにとてもよく似合ってるよ」
「え〜、そうかなぁ。高価そうなマフラーに見合ってるかな、わたし……」
「当然、見合ってるね。そのままその首元を飾ってほしいくらいだ」
自信ありげにそう語る藤堂を見て、藤原は微笑ましく笑う。
ふたりは並んで歩きながら、白い息を何度も重ねていく。
そして、校門が見えたとき──藤原がふと立ち止まり、マフラーの端をそっと指先でつまんだ。
「……ねぇ、藤堂くん」
「ん?」
「このマフラー、借りっぱなしにならないように──」
藤原は彼を見上げ、少し照れくさそうに笑った。
「わたし、手編みのマフラーを編んでお返しするね。お礼の気持ちを込めて。藤堂くんの首元に見合ったものになるように」
その言葉に、藤堂護は目を瞬かせた。
次の瞬間、堪えきれず口元が綻ぶ。
「……なるほど。これはまた、甘美な“魔法返し”ってわけだね」
「魔法?」
「そう。ボクのマフラーにはね、笑顔になる魔法がかかっているんだよ。……そして今、それがキミから返ってきたんだ」
「ふふっ、ステキな魔法……だね」
寒風が吹き抜ける中、お互い魔法をかけられたふたりは微笑み合い、 心と身体に暖かなぬくもりを感じていた。