ぬくもりの朝

冷たい空気が薄いカーテン越しに差し込む朝。
時計の針は七時前を差している。
護は目覚ましが鳴る前に目が覚め、しばらくしてから小百合のいるリビングへ赴いた。
扉を開けると、彼女は先に朝ごはんの用意をしていた。

「あっ護くん、目が覚めた?」

キッチンに立つ小百合はエプロン姿で、湯気の立つ土鍋を丁寧にかき混ぜている。
ふわりと香る青菜の匂いが、まだ眠気を引きずる彼の鼻をくすぐった。

「ふふ、今日は七草の日だから朝ごはんは七草粥だよ」

「ボクのために、そんな季節行事まで用意してくれるなんて……まったく、小百合さんは本当に罪な人だ』

「ふふ、もう出来てるから座って」

テーブルに座った護に小百合は湯呑みに温かい緑茶を注いで差し出し、護は微笑みながら受け取る。
その仕草の優雅さに、彼女は少しだけ頬を染めた。

テーブルには、ほかほかの七草粥。
細かく刻まれた青菜が白い粥の上に色を添え、香りとともに心まで温かくしてくれる。

「いただきます」

二人で手を合わせてから、ゆっくりと箸を運ぶ。

「……ん、美味しい。それに卵を入れたんだね。やさしい味がするよ」

「そうなの〜、うちではたまご粥にしてたからそれで作ってみたけど、お口に合ったみたいで良かった。お正月はちょっと食べ過ぎたかなって思ったから、身体をいたわらなきゃって」

小百合は緑茶を飲みながら、少し気恥ずかしそうにそう語る。

「フフ、小百合さんは食べるのが好きだからね。そういうところが可愛らしいけど、ちゃんと節制出来てて偉いね」

護は彼女の語りを見て微笑ましげに見つめてから、少しだけ視線を逸らしながら、ふっと笑った。

「……大学生になってから毎日忙しくて、こうして朝からゆっくり語らいながらキミの料理を食べられることが、どれだけ贅沢か……」

「……確かにこれからまた忙しくなるけど、わたしは護くんと一緒にいられるだけで、十分幸せだよ」

そう言って小さく笑う小百合の指先が、護の湯呑みにそっと触れる。
彼女の手は朝の寒さで少し冷たかったが、心は誰よりも温かかった。

「ねえ護くん。こうやって、毎年一緒に七草粥を食べられたらいいね」

「もちろんさ。来年も、再来年も……ずっとボクの隣にいてくれ、小百合さん」

護は真っ直ぐ小百合を見つめてそう言った。

照れくささを隠すように、彼女は顔を伏せて小さくうなずいた。

窓の外には、白い息を吐きながら登校する子どもたちの姿。
温かな部屋の中で、二人は寄り添いながら静かな朝を噛みしめていた。

──まるで、粥のようにじんわりと沁みる幸せを、二人だけで味わうように。

ぬくもりの朝
2026/01/11 up
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