とある日の午後。
藤堂家の広大な敷地内にある薔薇が咲き誇る庭園の奥に設えられた特別なティーテラス。
その一角に、藤堂護は優雅に腰かけていた。
テーブルにはティーカップが置かれ、ティースタンドにはスコーンやケーキやマカロンなど、色とりどりのスイーツが乗っていた。
紅茶が好きな彼は、ここでのティータイムを欠かしたことがなく、生活の一部になっているようだった。
「この場所は癒されるなぁ。薔薇の香りもいいし、心が洗われるよ」
「……ふふ、お待たせしました。お紅茶になります、護お坊っちゃま」
そう声をかけたのは、普段はセーラー服姿の藤原小百合──だが今日は、黒と白のクラシカルなメイド服に身を包んでいた。
頭には可愛らしいホワイトブリムをつけ、笑顔を浮かべてティーポットを掲げている。
「…フッ、やはりキミは何を着ても似合うね、藤原さん。可愛らしさが増して目のやり場に困るくらいだよ」
「えへへ、照れちゃうな……」
彼の言葉に赤面しながらも、藤原は手慣れた仕草でカップに紅茶を注ぐ。
そっと立ち上るアールグレイの香りが、薔薇の匂いと混ざり合って空気に溶けた。
「それにしても、なんで急にこんなことを…?」
藤堂が藤原にメイドに扮してティータイムに付き合ってくれないかと提案してきたのは今朝のことだった。
本当に唐突な願いであったが、彼女は特に予定もなく本格的なメイド服を着てみたかったのもあって、二つ返事で了承した。
「フフン、理由なんて決まってるだろう? ボクの目の保養、そして癒し、そして──」
藤堂はカップを傾け、紅茶を一口飲むと満足げに微笑む。
「──普通の女の子であるキミの非日常的な姿が見てみたかったんだ」
「……ふふ、面白いこと考えるね、藤堂くんは」
そう言って笑った藤原の頬にはほんのりと朱が差していた。
いつもの彼女はおっとりしているが、どんな相手にも物怖じせずに自分の意見を伝える芯を感じさせる子だ。
しかし今日の彼女は、少し照れくさそうに目を伏せながらも、きちんと藤堂のためにメイドになりきり紅茶を用意し、そっと砂糖壺を差し出してくれている。
「砂糖はおいくつお入れしましょうか?」
「……キミの甘さには敵わないけど、二つで頼むよ」
「もう〜、メイドさんをからかっちゃいけません!」
ぷくっと頬を膨らませて注意をする藤原に、藤堂はくすりと笑った。
そんな彼女の素直な反応がたまらなく愛おしい。この上ないティータイムだ。
「……護くん、」
藤原から少し照れたように呼ばれて、藤堂はカップを置き、テーブルに肘をついて彼女をじっと見つめる。
「……なんだい?」
「こうしてあなたと一緒に過ごす時間、わたしは好きだよ」
彼女は純粋で真っ直ぐな自身の感情を藤堂に向けて言葉にする。
その瞳には彼を慈しむような光が宿っていた。
その一言で、藤堂は心のどこかが温かくなるのを感じた。
「……ボクもだ、小百合さん。キミがいてくれると、退屈な世界が輝いて見える」
二人の視線が重なり、風が優しく薔薇を揺らした。
穏やかで静かな午後に薔薇と紅茶の香りとともに、小さな恋がひっそりと育まれていた。