冷峰学園の昼下がり。
藤原小百合と藤堂護は、とある備品を探しに旧校舎の倉庫室へと来ていた。
現在の校舎は綺麗だが、旧校舎は所々古びていてガタが来ているものが多そうな印象だった。
藤原はロッカーを開けて目当てのものを見つけ、身を乗り出す。
「これだと思うんだけど……あ、あったあった」
藤原が手を伸ばしたその瞬間、ガタン──と大きな音を立てて、背後のロッカーの扉が何かにぶつかり跳ね返った。
次の瞬間、ふたりの身体はバランスを崩し、ロッカーの中へと押し込まれてしまった。
「ちょ、ちょっと待って!? 閉ま──」
ガチャン。
重い音が響き、闇と沈黙が降りる。
狭く、硬く、そして妙に暖かい。
藤原は自分の身体に何かに押し付けられているのを感じて顔を赤らめた。
「う、うそ……閉じ込められたの?」
藤原は扉が開くか確認しようにも、狭くて身動きが取れずにいた。
「……やれやれ、古い施設の備品はガタがきているなぁ」
藤堂は困ったような声色をあげているが、どこか嬉しそうでもあった。
ロッカーの中は思いのほか狭く、藤堂の胸元に藤原の額が触れるほどだ。
「……ごめんね、扉があんな風に跳ね返ってくるとは思わなくて」
「いや、藤原さんが悪いわけじゃないさ。ボクにとってはむしろ──ラッキーなハプニング、かもね」
その台詞に、藤原の顔が更に赤く染まった。
心臓が、ドクン、と跳ねる。彼の体温が近い。
彼の匂いや息遣いさえ感じられるほどの距離に、頭がぼーっとしてしまう。
「こんなに密着してるとドキドキしちゃうよ……」
赤くなった顔で上目遣いをしながらそう答える藤原に藤堂の喉がかすかに鳴る。
「……そんなに可愛い顔で見つめられたら、キスしたくなってしまうじゃないか」
一瞬、沈黙。
藤原は息を呑み、でも視線は逸らさず、そっと呟いた。
「……いいよ、しても」
その一言は、ロッカーという密室の空気を一変させた。
藤堂がそっと手を伸ばし、藤原の頬に触れたとき──
外から足音が聞こえた。
藤原はハッとして思わず大きな声をあげる。
「誰かいるのー!?閉じ込められちゃったの!助けて!」
叫び声を聞きつけてドタドタと足音が近き、その音はロッカーの前で止まった。
「この中に誰かいるのか!?今開けるぞー!」
ガチャ、と無粋な音がしてロッカーが開かれた。
現れたのは通りかかった後輩の男子生徒だったようで、ふたりは飛び出すようにロッカーの外へ脱出した。
「助かった〜!どうもありがとう。備品を探していたら閉じ込められちゃって……」
藤原は安堵の声を上げつつ、藤堂は苦笑いを浮かべながら前髪をいじっている。
「……ふふ、惜しかったね。助けが来るのがもう少し遅かったらよかったのに」
「もうっ、藤堂くんったら……」
藤原は先程のやりとりを思い出して顔を赤らめていたが、満更でもなさそうな様子を見て、藤堂はほくそ笑んだ。
その日の午後、藤原の鼓動はしばらく落ち着くことはなかった。